デンマーク料理

デンマーク料理

2013年9月27日

九州よりわずかに広い程度の小さな国土なのに、さらに2つの島と1つの半島という3つの地域に分かれているデンマークにも、個性的な料理がいくつかある。

オープンサンド

障害者施設でいただいたオープンサンド
障害者施設でいただいたオープンサンド

サンドイッチは日本でもよく食べられているが、オープンサンドという代物は日本ではほとんど見かけない。意味すらわからない人もいるに違いない。サンドイッチとは、日本では、何かの間に挟まれている、という意味になっている。食べ物の場合は、丸や三角形や四辺形のパンの間にハムとかチーズなどの具が挟まっているものにほぼ限定されている。
はさんだものがサンドイッチなのに、オープンでありながらサンドイッチとは、日本では言葉自体が矛盾になってしまう。
デンマークの名物にオープンサンドがある。デンマークではこれを単にバター付きパンSmorrebrodと呼ぶ。この名前から想像するとすごく貧しい印象で、注文したいとは思えない。そのためか、カフェテリアでは、すでに調理したオープンサンドが置いてあり、自分で皿に取るか、注文して皿に載せてもらう。まさかこれがバター付きパンと呼ばれるものとは思わずに私たちは食べる。

オープンサンドとは、四方形のパンの上に具が乗っているだけ。具がむき出しで、屋根になるパンがない。具は想像以上に大きく、床になるパンの2倍くらいになっている。たとえば、ゆでたむき海老とゆで卵と香味野菜のディルの場合、20匹を越す海老が山のように積まれている。ナイフで6切れか8切れくらいにしないと、口に入る大きさにならない。そうなっても、食べるときにはフォークを慎重に口元に運ばないと、海老がバラバラと崩れ落ちていく。あくまでもオープンサンドの形を守って、床にあるパンと一緒に食べようなんて考えずに、海老とゆで卵とパンをバラバラにして食べるようにすると、無駄なストレスを感じずに済む。

オープンサンドの種類は多い。ハンバーグ丸ごとにケッパと薄切りトマト、レタスの上に長さ10cmほどの酢漬けニシンが2枚とタラコとレモン、レタスとハムとブルーチーズ、スモークドサーモンにスライス玉ねぎとケッパにレモン 、ローストポークにきゅうりのピクルス、レタスの上にローストビーフとタマネギのフライ、レバーペーストの上にレタスと赤カブ、レタスにスモークしたウナギにレモン、ローストビーフにレタスにホースラディッシュにトマトという具合に、まあなんでもパンに積み上げてしまう。だからコペンハーゲンにあるレストラン・イーダ・デビッドセンのように250種類も作り出せるのだ。

デンマークのオープンサンドはかつてはどこにでも見られるものだった。駅の食堂、フェリー内のカフェテリア、デパート食堂、美術館の食堂、町の中心街のカフェテリアと、どこに行ってもオープンサンドがあった。食文化が豊かになったいまは、ハンバーガーやキッシュなどに押され、その勢力は格段に弱くなった。だが、コペンハーゲンのニューハウンに並ぶレストランや、クランペンボーにあるレストラン・ヤコブセンのランチは伝統的なオープンサンドである。そして、デンマークの自治体や企業、施設などを訪問したときに出してくれる昼食は、まだオープンサンドが主役である。たかがオープンサンドではあるが、威厳とか、格式とか、伝統を象徴するものとしての存在感は十分にある。

ちょっと気取ったオープンサンドは、パンとバターと具がそれぞれ別の皿に盛られてサーブされ、自分でパンにバターを塗り、好きな具を載せて、ナイフで小さく切りながら食べる。パンには白いパンと、酢っぱ味がある黒パンがある。好きな具とは、酢漬けのニシン、スモークドサーモン、小エビ、ローストビーフ、レバーペースト、ハンバーグ、ゆで卵程度で、ふつうのオープンサンドと同じである。シェラン島のヒレロズのフレデリクスボー城の周辺にある古いレストランの数軒が、まだこの形式で出している。

ルイジアナ美術館のランチは軽くておしゃれ
ルイジアナ美術館のランチは軽くておしゃれ

前記のオープンサンド・レストランのイーダ・デビッドセンは、1888年に始めた酒場の食事としてスタートした。その後、オスカー・デビッドセンという名前で、世界でいちばん長いメニューを売り物にしていた。店自体は何度か移転したが、いまは5代目まで伝統が受け継がれている。選択肢がたくさんあるのは嬉しいが、選ぶのに時間がかかって途中で面倒になってしまう。適当でいいやと思っても、オープンサンド2個と飲み物で5,000円位は必要だから、食べたいものを食べよう。平日の昼食時のみの営業なのに、いつも混んでいる。

積み上げオープンサンドは、自治体や企業を視察したときのランチでは、大きな銀色のお盆に並んで出てくる。添乗員はすぐに何個並んでいるか数え、テーブルに座った人数で割る。必ずくる予定の「一人いくつ食べていいの?」という質問に備えておかねばならない。一人2個充てには1個足りないというときは、即座に席をたって隣のテーブルのオープンサンドを数える。それでも足りないときには、自分は最後に残った1個だけ食べようと決める。それなのに、競争導入こそ社会を救うと考えて、数の質問もせずに一人で3個食べる人がいると、計算は台無しだ。やめて下さい、というわけにもいかず、その場合は「ちょっと電話してくるので、食べて下さい」とか言って、外で時間をつぶす。この日の昼食はなし。私のような悲しい思いをしないで済むように、本当は一人2個とかの決まりがあるような気がする。平等を旨とするデンマーク人には、不文法があるに違いない。しかし、日本人に出すときには、お盆に一人2個、と書いてほしいものだ。

オープンサンドは、味よりも、色彩と柄を重視して、積み上げたと思えるほど、ビジュアルなメニューである。ちょっと目を閉じて、色を想像してほしい。レタス、ゆで卵、トマト、ゆで海老、レモン、酢漬けニシン、スモークドサーモン、香味野菜のディル。これらを少しずつ絡み合わせれば、かなりの美しい作品群になる。デザイン王国デンマークで、オープンサンドが生まれたのは当然だと思う。

ひき肉料理など

フリカデッラfrikadellerと呼ばれるミートボールのブラウン・ソースかけは、デンマーク料理の一つと呼べるだろう。豚肉と牛肉の合い挽きを団子にしたもので、老人ホームでは週に1回くらいの割合で出るから、昔の国民食なのだろう。表面を焼いて固くしてあり、そこにブラウン・ソースをかけただけ。それでいて、塩味がすごく効いている。添え物の酢漬けの赤カブや茹でたジャガイモ、マッシュド・ポテトと一緒に食べて、塩味を中和させたくなるが、そのマッシュド・ポテトも塩味が効きすぎている場合、パンで中和するしかない。日本にも、かつては町の定食店や洋食店、デパート食堂にスパゲッティ・ミートボールというのがあってキッズ・フードの代名詞だったが、いまはめったにお目にかからない。もう何年も食べていないので、なんとなく懐かしい、という感じがする。でも、デンマークのミートボールはパサパサしていて食欲をそそらず、食べるとさらに食欲が遠のく。老人ホームの博物館的メニューになったのも無理からぬものと思う。

フリカデッラの親戚のような料理がハンバーグ・ステーキ。ソースはなく、生卵の黄身やケッパー、刻んだ玉ねぎ、酢漬けの赤カブなどを乗せて食べるのが、伝統的な食べ方のよう。ミートボールよりはこちらのほうが魅力的だ。

大皿にヒラメ丸ごと一匹のフライとポテトチップスが乗るメニューは、デンマーク料理の代表のひとつかもしれない。ヒラメ丸ごと一匹を使う料理は、他の国ではほとんど見ない。ふつうの人が1人で食べるには量が多すぎるし、味はひとつだからふつうの人なら途中で飽きてくる。ヒラメ丸ごと一匹のバター焼きというのもあるが、量が多いことと味がひとつであることに変わりはない。はじめの何口かはとてもおいしいから、数人で食べるといい。

豚肉の国だから、豚肉のソテーにきゅうりのピクルス、ポテトチップス付き、というあまり個性的でない料理も忘れてはいけない。

料理とはいいにくいが、北欧共通の食材である「酢漬けのニシンsild」もデンマークで食べられる。酢漬けにしたものに、みじん切りにしたタマネギが添えられている。カレーやトマトで味付けしたものもあり、三種盛り合わせとしてニューハウンのレストランに出ている。しかし、レストランで食べなくても、中級以上のホテルでは、朝食に出していることが多い。食品加工会社が作っている瓶詰めを出しているだけで、そのレストランやホテルで作ったものに出会うことはほぼ100%ないから、どの店も同じ味だ。

デンマーク料理のハイライトはオープンサンドに尽きるだろう。あとのものは、出会ったら食べる程度にして、求めていくほどの味ではない。

伝統料理が食べられる店

レストラン、ヤコブセンのランチ
レストラン、ヤコブセンのランチ

日本ではまず食べられないのだから、数日間の旅だったら、こうしたデンマーク料理を楽しんでほしい。それにどれも庶民のメニューで、高くない。

デンマークでこうした料理が食べられる店は、思ったより多い。もう昔の料理と思っていたが、依然として人気はあるらしい。

コペンハーゲンで、これらのデンマーク料理を食べさせてくれる店をいくつか紹介しよう。

チボリ正門の北向かいのアクセルトーヴ広場Axeltorv に面したアクセルボリ・ボデガAxelborg Bodegaは、ふつうのデンマーク料理を売り物にしている。レストランではあるが、酒場の雰囲気が濃厚で、客の大半が横幅が広い人たちなのに、テーブルと椅子をつめつめに置いている。夜のにぎやかさは相当のものだ。コペンハーゲンの庶民たちが飲み、食べる姿が目の辺りに見られる。

シュールなデザインのプラネタリウムの2階にあるカシオペアは貯水池の前にあり、西北側の壁が一面ガラス窓というモダンな感覚が気持ちいい。夏は夕日やジョギングする人たちが見られ、冬はキャンドルの火のもとで、おしゃれな食器やインテリアをたのしみながらの食事となる。現代建築の1ページを飾る建物の中で、シーフード盛合せやヒラメ丸ごと一匹のフライ、ローストビーフなどの半世紀以上前からの古い食事を食べさせたいというコンセプトがちょっと変わっている。

市庁舎前広場に面したコペンハーゲン・コーナーは観光客でいっぱいの古い店。30年前と味もメニューも変わらない感じがして面白い。

もう一軒、西口のホテル街にあるFrk. Barners Kaelderもふつうのデンマーク料理を作っている。前菜に酢漬けのニシンsildがある。シュリンプ・カクテルはドレッシングがサザンアイランドなのでアメリカ料理のようだが、この店ではグリーンランド産のシュリンプを使う。メインは、大きめのハンバーグがおいしい。ポーク料理、ビーフステーキもしっかりとある。ランチ・メニューにあるスクランブルエッグとウナギの燻製は、イギリスにもある北ヨーロッパの伝統的な料理だが、おいしさがよくわからない。100年以上の歴史がありそうな建物の半地下にある店で、インテリアはかなりレトロ。第二次世界大戦以前の雰囲気が味わえるのは貴重な存在だ。店自体はオーナーが代わっている。名前も代わっている。2007年まではStig'sといい、ユーラン半島生まれの老シェフの経営だった。いまは中年のビジネスマンという感じの人が頑張っている。

ニューハウンに並ぶデンマーク料理店は、こぞってシーフード、とくにニシンの3種盛りのようなメニューを出している。どこの店で食べても大差ないのは、前に述べた通り。基本的には、細かい味の違いにこだわるわけではなく、見せ方や伝統という裏打ちに食の価値を見出す国民のように思える。

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