マルメ市の再開発地区ヴェストラ・ハムネン

マルメ市の再開発地区ヴェストラ・ハムネン

2013年10月1日

マルメのヴェストラ・ハムネン

雨水は池で濾過して海へ流す
雨水は池で濾過して海へ流す
雨水の利用
夏の水を地下に貯めて冬の暖房に使い、
冬の水を夏の冷房に使う
海に面したエコ集合住宅
海に面したエコ集合住宅

 デンマークの首都コペンハーゲンの対岸にある人口27万の港町マルメは、1990年代の終わりまでは工業が衰退したみすぼらしい田舎町だった。しかし、この町は長い時間をかけて再興プログラムを作成し、新しい世紀の初めから見事に生まれ変わった。まさに町の建て直しとはこういうものだという成功例のひとつと思える。日本で町作りに悩む地方自治体の現場の方たちにぜひ見てほしいところだ。

 その再興のシンボルが、中央駅の西側に広がる約160haの沿岸埋立地ヴェストラ・ハムネンVastra Hamnen。「西港」の意味で、この地域には、18世紀以降、コッカムという造船所ができ、客船や海軍の潜水艦を作っていた。しかし、1960年代から日本や韓国の安い造船会社との競争に負けはじめ、1980年代にドックが閉鎖され、23万の人口のうち4万人分の仕事が失われた。その後、サーブの自動車工場が誘致されたが、サーブも不況で撤収し、その後はコッカムの高さ140mのクレーンが、マルメの象徴としてそびえるだけだった。クレーンはたまにバンジージャンプに利用されているのを見たことがある。寂しい晩年だったが、2002年に韓国に売却されて、いまも活躍しているとのこと。

 サーブ撤退のあと、マルメ市は経済復興を期して目標を設定した。それは、1. コミュニケーションを増やす、2. 教育を充実させる、3. 企業を誘致する、の3つだった。これらの目標を実現するための場として、ヴェスラ・ハムネンが選ばれた。重工業地域だったが、工場が移転閉鎖したので、土壌の浄化と埋立てを行った。スウェーデンはヨーテボリの造船所の跡地や、ストックホルムの工業団地跡などの土地の浄化を経験してきたので、マルメでは最新の技術を利用することができた。

 91年に、コミュニケーションを増やすためにコペンハーゲンと結ぶオアスン橋の建設が決定した。93年に、主橋の長さ1,092m、東西の補助橋の長さ6,753mの建設が開始された。魚や船の通路を守るため、コペンハーゲン側には長さ4kmのトンネルを掘り、中間に人口島を作り、マルメ側が橋という鉄道・道路だ。2000年7月に橋が完成すると、デンマークより低いスウェーデンの物価と所得税に招かれるように、コペンハーゲンで働く人たちがマルメに移住しはじめた。また、北欧人の出入国審査がなくなり、国境の移動も簡単になった。マルメからの電車は、オアスン橋を渡ってデンマークに入り、コペンハーゲン空港駅、コペンハーゲン中央駅などを経由して、シェラン島最北部のヘルシンオアまで行く。コペンハーゲンからストックホルムまで行く直行電車、マルメからコペンハーゲンを経由してヨーロッパへ行く直行電車はほとんどなく、マルメかコペンハーゲンで一度乗換えるようにしているのも、基点となる町を簡単に通過させない配慮のように思える。

 教育を充実させるために、1998年にマルメに大学が設立された。スウェーデン南部には、マルメから電車で15分の古都ルンドにしかなかった大学が、スウェーデンの南の玄関にできたことは大きな変化になった。スウェーデンにはいまは11の総合大学と約20の単科大学があるが、暖かい南を好む若者が多いので、南部のマルメ大学は人気の大学になった。いまは学生・教員・事務を合わせて2万人の大学関係者がいる。

 大学が力を入れているのが教員養成コースと情報コースだ。これらの人材を獲得するために、建設コンサルティングのTyrens、スウェーデン三大電力会社の一つのSydkraft、通信会社Telia、携帯電話製造会社Flextronics、潜水艦製造会社の Kockums Submarineなどが進出してきた。

 2001年にこの地区でヨーロッパで最大の住宅博覧会Bo01が開催され、西 側の25haにエコ実験住宅41棟が建設された。個性豊かな街並みを作るため、26の建築会社に自由な設計を依頼した。博覧会の閉会後、住宅はそのまま販売され、さらに周囲に増築され、Bo01住宅地は現在1300世帯にまで増加した。

ターニング・トルソ
高齢者住宅の後ろにそびえる住宅
ターニング・トルソ
住宅の隣に作られた人工ビーチ
住宅の隣に作られた人工ビーチ
2001年に建設されたエコ住宅街
2001年住宅博覧会で建設されたエコ住宅街

 ここでは時代の流れである環境負荷の少ない、環境と人間に優しいエコ 住宅地をつくろうとしている。雨水は水草などで浄化し、汚れを沈殿させながら、海へ流していく。水路、池、花壇、野菜畑、海鳥用のビオトープなどの自然とのふれあいに必要な設備も設けられている。

 ごみは、燃やせるもの、再生可能なもの、肥料にできるもの、バイオエ ネルギーとして利用できるものに分けられて収集されている。バキュームによる搬送システムや、焼却からの廃熱の利用、バイオガス生成など、北欧が生んだアイディアを存分に生かしている。建築材料も、公害を生まずに生産されたもの、再利用できるものが使用されている。

 交通では自家用車の利用抑制を掲げて、駐車場をまとめるように配置している。その駐車場の数が少なく、自家用車の所有や自動車の利用を抑制する意図がある。自動車利用が少ない家庭には、カーシェアリングの利用が勧められている。

 エネルギーでは太陽光、水、風力を主体的に利用している。ソーラーでの温水作りだけでなく、地下70mにある水槽からヒートポンプで水を汲み上げて熱交換で温水を作り、地域に供給している。風力発電機は高さ120m、電気出力2MWの最大級のものがあり、年間で6300MWhの電力を供給している。また、各家庭内に設置されたボードでエネルギー消費量や換気の情報がわかるようになっていて、1時間の利用量に限度が設けられている。Bo01の住宅では、2008~2012年の間にCo2排出量を1990年比で25%削減することを目標としているとの説明だった。

 住宅街は海に近い側にあり、夏は家を出るとすぐに日光浴が楽しめるようになっている。でも、家を出るとすぐに刺激的なビーチウェアの女の子たちがうろうろしているので、仕事に行きたくなくなってしまうだろう。高齢者施設も1か所あるが、いまのところは視察はお断りと言われた。全体にデザイン重視の住宅が多く、障害者への対応がよくないと批判を受け、市は対応を考慮中のようだ。

 古い建物がほとんど残っていないマルメだが、ヘニング・ラーセン設計の市営図書館とヴェストラ・ハムネンの斬新なデザインの建物群、コペンハーゲンからも見える高さ193mのターニング・トルソができて大きく変わった。駅の近くに残る15世紀の市長の私邸コクスカ・クローゲンやマルメ城の古い建物が新しい建物の間に浮かび上がって見え、魅力が出てきた。職場が増えて人口が増え、さらに町に活気が出て、住み心地がよくなり、観光客も増えたとなると、マルメ市の再興は大成功のようだ。

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