マルメ市の新しいシンボル、ターニング・トルソ

マルメ市の新しいシンボル、ターニング・トルソ

2014年11月17日

新しいシンボル「ターニング・トルソ」

高齢者住宅の後ろにそびえる住宅ターニング・トルソ
高齢者住宅の後ろにそびえる住宅ターニング・トルソ
トルソーの上部は眺めのいい部屋
トルソーの上部は眺めのいい部屋
トルソーの基部、玄関
トルソーの基部、玄関
南から見たトルソー
南から見たトルソー

 スウェーデンの南西端にある第3の都会マルメの港には、2002年までコッカム造船所の高さ140mのクレーンがそびえていた。かつてのスウェーデンは造船業が盛んで、自国で生産できた鉄を利用して、大型の客船や輸送船を数多く造っていた。コッカム造船所のクレーンは、工業国スウェーデンのシンボルであり、工業都市マルメのシンボルでもあった。
 しかし、1970年代からスウェーデンの造船業は、社会保障費負担や人件費が安い日本や韓国や中国の造船会社に価格で負けるようになった。コッカム造船所はスウェーデン海軍の潜水艦を造る以外に仕事がなくなり、クレーンは韓国の造船所に売られた。オアスン海峡を挟んで、遠く隣国デンマークの首都コペンハーゲンからも眺めることができたマルメのシンボルは消えてしまった。
 前世紀末にデンマークとスウェーデンの景気浮揚策の一つとして、コペンハーゲンとマルメの間のオアスン海峡に橋をかけることが決まり、設計のコンペを実施した。参加者の一人だったスペインの建築家・彫刻家サンチャゴ・カラトラヴァSantiago Calatravaは、自分の過去の実績の一つとしてひねった彫刻の写真を添付しておいた。彼の橋の設計は採用されなかったが、新しいシンボルを求めていたマルメ市は、彼に彫刻作品のようなひねった建物を設計してほしいと依頼した。カラトラヴァは1951年生まれで、TGVのリヨン駅、バルセローナのアラメダ橋、リスボンのオリエント駅、2004年のアテネ・オリンピックのメイン会場などを設計している。構造設計の知識を駆使した機能的で美しい建築のプロフェッショナルで、駅や橋を好んで作っている。マルメ市は、造船所の跡地をIT時代にふさわしい新しい大学とIT産業の地に再開発した。加えて、環境保全と無駄を排除する新しい暮らしができるエコ住宅を備えた、職住接近の地として位置づけた。そのシンボルを何にするか、ずっと考えていたのだろう。そして、この奇抜で人の目を引き、最新のエコ技術がぎっしり詰まった、それでいて知的で美しい高層建築ターニング・トルソTurning Torsoが誕生した。2005年8月に完成した。
 中央駅西の再開発地区ヴェストラ・ハムネンの一郭にそびえるこの建築は、はじめて見る人には驚きの建築だ。北欧最高の193mの高層ビルが、地上から最上階まで90度の角度でひねってある。54階建てで、1階から10階までは賃貸オフィス、それより上階は45-190m2の147世帯分の賃貸住宅、53階と54階が会議室になっている。5階建てのブロックが9層積み上げられた外装で、何度か見ていると「美しい」と思えるようになってきた。現代建築最高の美の作り手による建物は、スウェーデン人のセンスの高さをも表現している。
 室内に入ることができなかったので実際はわからないが、家具の置き場などがぴったりしない部分がでてくるのではないかと思えてならない。あるいは、ねじれているのは外側だけで、内側の5階建てのブロックはそれぞれまっすぐなのかもしれない。海岸のすぐ近くに建つので、上の階からの眺めはすごい (ホームページHSB Turning Torsoで展望や設計がわかる)。その反面、風が強いので、壁面や窓部分のいたみははげしいようにも思える。たぶん多少のマイナス面はあるだろうが、マルメのシンボルとしては余りあるはずだ。コッカム造船所のクレーンがシンボルだった時代は約50年しかなかった。時代が移れば、ターニング・トルソとは別のシンボルが必要になることだろう。
 余談だが、いいシンボルのある都会はある意味うらやましい。シンボルの例は、パリのエッフェル塔、ニューヨークのエンパイア・ステート・ビル、ロンドンのビッグベン、ローマのバチカン、ストックホルムの市庁舎、東京のスカイツリー、アムステルダムの飾り窓は違うかな。でも、まあうらやましい。しかし、パリやニューヨーク、東京のシンボルはただ高いだけで、高く作る技術以外には何も象徴していない。ロンドンは議会主義を象徴し、ローマはキリスト教、ストックホルムはノーベル賞、そしてかつてのマルメのクレーンは工業を表し、いまは情報産業を象徴している。スウェーデン人はシンボルの作り方が上手とも言えるが、テーマのある町づくりと連携させて、じっくり考えた末のものだから、的を得ているのだろう。

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